【幕間】考察!『昔話法廷』 ヘンゼルとグレーテル裁判

NHK教育『昔話法廷』
ヘンゼルとグレーテル裁判

強盗殺人か正当防衛か

高田机上の考察

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この記事は男女差恋愛学とは関係なく、筆者が書きたくて書いています。

『昔話法廷』は「童話や昔話の主人公たちが訴えられたら」という設定で、登場人物が現代の法廷で裁かれる法廷ドラマ。裁判は裁判員裁判で行われ、劇中の主人公は裁判員のうちの1人。番組内で判決を出さず、視聴者にゆだねられる。小学校4年から高校生までを対象にしており、番組は15分で、学校の授業の題材にできるようにしています。

NHKのサイトで全編を無料で観れます

こちらで番組全編の15分を観れますので、お時間がある方はどうぞ。

両者で主張が違わない事実の部分

以下、筆者が争点ではないと判断した部分は割愛しています。

ヘンゼルとグレーテルは生活に困窮した親により森に捨てられた。兄妹は森を三日三晩さまよい、白い鳥に導かれ、お菓子でできた家にたどり着き、そこに暮らす年老いた魔女に保護された。一カ月後、魔女は兄妹によりかまどで焼死した。兄妹は魔女が所有していた山のような金貨を奪って親元に帰った。

検察側の主張

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検察官役は小西真奈美

兄妹は魔女に保護されている間に、魔女が多額の財産を所有していることを知り、強奪を計画し、善良な魔女を焼殺し金貨を奪った。これは強盗殺人罪にあたる

弁護側の主張

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弁護人役は志賀廣太郎

魔女は人食いであり、保護した兄妹が寝ている間に、兄を家畜小屋の檻に閉じ込めた。魔女は兄を太らせて食べるため、妹を召使いにし料理を作らせ兄に食べさせていた。

ある日、魔女は「もう待ちきれない」と言い、兄を焼いて食べるため妹にかまどの火を起こさせた。魔女がかまどを覗き込んだときに、妹は魔女を突き飛ばし、かまどの奥に押し込み焼殺した。その後、森を抜けるための地図を探していたら、山のような金貨を見つけ、出来心で持ち帰ってしまった。

魔女の殺害は正当防衛であり罪に問えない兄妹の罪は金貨を盗んだ窃盗だけである

証人尋問:白い鳥

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(人間大の鳥が人間語で話す)

鳥「森で偶然、迷子になっている兄妹を見つけ、友達である魔女に保護してもらおうと連れて行った」

鳥「魔女は人食いなんかじゃありません」→兄妹は驚いた表情をする。

鳥「魔女は本当に優しい人だった。兄妹を甲斐甲斐しく世話したはず」

弁護人「あなたは迷子を人食い魔女に差し出していた。その罪がバレるの恐れて嘘をついている」→鳥は強く否定。

あなたの判決は?

番組では最終弁論で、検察側と弁護側が最後の主張をし、裁判長が「これから裁判員のみなさんで判決を話し合います」と言い、番組は終わります。書籍では別室に移った裁判官と裁判員による評議が描かれますが、裁判員がそれぞれ意見を出し合うだけで話は終わり、判決に関して明示も示唆もされません

これより下に高田机上の判決と見解を述べますので、自分で考えたい方はここで止まって考えてから進んでください。

 

 

 

 

 

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高田机上の判決は
強盗殺人罪

※番組でも書籍でも判決を明示されていません。以下は公式の見解でも弁護士の見解ではありませんのでご了承ください。

魔女と兄妹の4つのルート

 

組み合わせ

兄妹の目標

魔女の死因

A

善魔女×善兄妹

長期滞在や同棲

事故死

B

悪魔女×善兄妹

生還

正当防衛

C

善魔女×悪兄妹

金品強奪

強盗殺人

D

悪魔女×悪兄妹

金品強奪か

生還→強奪

強盗殺人

 

Aルートとなら魔女を助けようとしたし、通報もしていたはず。ましてや金品を盗らなかったはず。事前に金品を発見したとしても、帰る家のない兄妹は魔女の頼って生活していくしかなかったはずで、このまま自分たちを保護してもらいたいので、魔女を殺害して金品を奪うとは考えづらいです。通報せず金品を盗ったということでAルートは除外します。

考えづらいとはいえど、それでも親元に帰りたかったならCルートになります。しかし金品強奪が目的だとして殺害する必要はあるでしょうか。夜中に金品を持ち出して逃げ出すほうが自然だと思います。魔女の目が悪かったとしたら、逃げ出すのが難しかったとは思えません。

考えられるとしたら、夜中に金品を持ち出す途中に魔女に気付かれてしまい、居直り強盗の形で魔女を殺害してしまう場合ではないでしょうか。しかし魔女の死因はかまどの中での焼死なので、夜中にその殺し方になるとは考えづらいです。

その上、金品を持ち帰ったとして、それを使い尽くせばまた親に捨てられるのではないか。あるいはその金品を取り上げられまた捨てられるのではないか。親元に帰って平穏が得られる保証はありません。Cルートも考えづらい。

 

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魔女は人食いで兄妹は正当防衛していた

そう考えるとBルートが自然なのではないでしょうか。正当防衛なら堂々と通報すればよかったんですよ。救護措置はできなかったとしても、人が死んだんですから警察を呼んで「やましいことはないので現場検証をしてください。過剰防衛であるならその罪を償います」と。それで正当防衛だと信じてもらえたはずです。なぜなら魔女を殺害する動機がないですから

Bルートには事前に殺意はなかったのに、あとで金品を盗ってしまったがために、通報はできなくなってしまい、正当防衛の信憑性もなくなってしまい、事前の殺意を疑われることになり、Aルートを装うこともできなくなった。

金品を盗って因果が逆転。殺したついでに金品を盗ったら、「金品を盗るために殺した」になるんです

真実は正当防衛だったとしても、「魔女が沢山の金品を持っていることを知っていて、計画的に魔女の家に押し入ったのではないか」「この犯行を計画したのは親で、実行したのは子供なのではないか」など、どんどん邪推されるんですよ。正当防衛までは善兄妹だったのに、金品を盗って悪兄妹になり、始めから悪兄妹だと疑われる結果になってしまうのです

 

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高田机上の判決

検察側はCルートだと主張しましたが、筆者の見解は兄妹の供述通り、Bルートのあと金品強奪したDルート。ただし、正当防衛での殺害としても、それを無罪にはできません通報した正当防衛と同じに扱うことはできないからです。始めから殺意があって殺したよりはやや軽いか同等の罪の重さだと思います。Cルートを完全に除外もできないです。金品を盗ったからですよ。

結果として判決は、強盗殺人罪

「疑わしきは罰せず」ですが、兄妹は信用に足る行動をとっていません

「真実はいつもひとつ」なんですが、その真実を証明することができなくなってしまうんですよ。

ABCDのルートで考えると、兄妹の理想はAルートのはずです。それができなかったのは魔女が人食いだったからで、やむなくBルートになってしまった。でも通報せず金品を盗れば、第三者からはCルートに見えてしまうんですよ。

裁判は「本来どうするべきだったか」がヒントになるように思います。昔話法廷の『三匹のこぶた裁判』も、本来なら家を壊されたことと、狼に襲われていることを通報すべきであって、狼をおびき出して殺すのが最善策ではないでしょう。それをしたら狼が死ぬことを分かっていて、準備をし実行したので、正当防衛に見せかけた計画殺人と言われても仕方ありません。筆者は三匹のこぶたを有罪にします。

 

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例え話をします

Aは夜に自家用車を運転していると、横断する歩行者を轢いてしまった。車を降りて様子を見ると歩行者はAの上司であるBだった。BはAに対して日常的に激しいパワハラやいじめを繰り返しており、AはBを殺したいと思っていた。Aは思わずガッツポーズをしていた。Bがこの世からいなくなって嬉しかったのと、罪のない人を死なせたのではなく死んで当然であるBを死なせたので、安堵したような気分だった。Bは即死していた。Aは死亡事故でパニックになっていたのと、これがバレたら自分の人生が狂ってしまうと思い、通報せずに立ち去った。

後日、Aは轢き逃げ事件ではなく、殺人事件として逮捕された。法廷でAは偶然の事故だったと主張した。

検察「あなたはBさんの死亡を確認してガッツポーズをしたでしょう」

A「!?」

検察「犯行現場付近の民家の防犯カメラに映像が残っています」

法廷に持ち込まれたテレビでその映像は流され、確かにAはガッツポーズをしていた。

検察「あなたはBさんに殺意を持ち、Bさんがこの時間に犯行現場を歩いて通ることを調べ、車で轢殺することを計画し実行した」

A「そんなことはしていません! 偶然です!」

検察「轢いたのが知らない人だったらあなたはガッツポーズはしなかったでしょう」

A「……」

検察「あなたの言う通り、偶然Bさんを轢いてしまったとします。恨みを持っていた相手なので思わずガッツポーズをしてしまったのかもしれません。それは人情として分かります。しかし通報せずに立ち去るというのは話が通りません。

道路交通法には救護義務違反というのがあります。交通事故があったときは、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。

轢いた相手が誰かは別として、人身事故を起こしたのは間違いないのです。偶然でもやってしまったことは仕方ないのですから、通報と救護措置はしなくてはいけませんでした。恨みを持っていた、ガッツポーズをした、通報せず逃げた、これが揃うと計画殺人にしか見えないのですよ。せめて通報と救護措置さえしていれば偶然だという主張に信憑性はありました。ですが法の下では、あなたのしたことは殺人です」

君たちはどう生きるか

誰も見ていない状況で正しい行動をとるのはかなり難しいことです

例えば、あなたは仕事で大きなミスをしてしまった。これを知っているのは自分しかいない。このミスがバレる可能性は低い。バレたとして犯人探しになっても、自分のミスだとはバレるはずがない。この状況で自らミスを申し出ますか?

もっと究極で言えば、盗んでも絶対バレない他人のお金があったら盗みますか?

やっぱり正しい行動をとったほうがいいです。その場ではどうしてもパニックで思考力や判断力を失った状態になりますし、「バレないでほしい」という願望も強くなり、隠蔽を決断してしまいます。バレなかったとしても今後ずっと「バレたらどうしよう」と不安を背負いますし、自分自身を「バレなかったら悪事を働く人間なんだ」と幻滅しながら生きていくことになります。

ヘンゼルとグレーテルが金貨を奪ったのは、親元での暮らしを再開するためでした。魔女が死んだ状況で、幼い兄妹が生きるためにはそうするしかなかったのかもしれません。ですが、それでも、人道に反する行為をしてはいけないんですよ。生き延びたとしても悪魔として生きていくことになります。

この案件で1番悪いのは兄妹の親ですよ。自分たちが生き延びるために子供を捨てる選択なんて最悪ですよ。中世で頼る行政がないとしても、親戚を頼るとか丁稚奉公に出すとかあったでしょう。自分たちの都合で産んだ子供で、自分たちの都合で生活苦なんですから土下座してでも頼みなさい。せめて子供だけでも助かるようにするのが親の責務ですよ。

 

【雑記】

男女差恋愛学の目次はこちら

 

元ネタのグリム童話浜辺美波の一人劇。

昔話法廷 Season3

昔話法廷 Season3

 

ヘンゼルとグレーテル裁判を収録したSeason3。上記サイトで動画を観れるし、テキストも載せてあるので、どうしても評議を読みたいならぐらいのおススメ具合です。

 

サンホラの曲。中世、母親に捨てられた娘が修道院で成人。母にどうして自分を捨てたのかを訊くため実家を訪れると、母は対立する宗教の奴が来たので斧で殺害。それが自分の娘だと気付いて後悔する。娘は復讐するため幽霊状態でよみがえり、森で迷う兄妹を母の家に誘導する。母はただの善良な老婆だったが、兄妹は人食い魔女だと誤認して焼殺。金品を強奪した。

Sound Horizonの『Märchen』だよみんな聴いてね(オタク特有の圧)

高田机上のTwitter https://twitter.com/takatakijou